【コラム:一人でキャッチボール第6回 ── 文:高島学】

11月18日、豪州はシドニーのクードスバンク・アリーナで開催されたUFC Fight Night 121「Werdum vs Tybra」はMMAの歴史に残る大会となった。

何も良い意味ではない。全13試合中、なんと計量オーバーが4名。それも1ポンドや2ポンドではない。3ポンドと4ポンドが1人、5ポンドが2人だ。5ポンドといえば2.26キロになる。

そして、こともあろうが体重オーバーした4選手が揃って勝利を手にしている。加えて書き記すと揃いも揃ってこの4人の勝者たちは勝利者インタビューで勝利の喜びを露わにしたものの体重オーバーを詫びることがなかった。
確かに彼らは体重を落とす努力をし、順調でなかったからこそ苦しい思いをしたことであろう。ただし、対戦相手は落としている。階級制競技とは少しでも重量のハンデを無くし、イーブンな立場で双方の選手に戦ってもらうための制度だ。
その前提を破っておきながら、謝ることもない。約束時間に遅れて、頭を下げない人とビジネスをしようと思うだろうか? それぐらい階級制のスポーツでリミットまで体重を落とすことは基本中の基本だ。

体重オーバーで勝利をすることは陸上競技や水泳で例えると、フライングスタートで勝ったようなものではないか。そんな勝利を手にして悪びれないでいられるということは、UFCという場が体重オーバーを結果的に容認してしまっているからに他ならない。

体重オーバーをした相手との対戦を拒んだファイターが批判される。そんな事態も過去にTitan FCで生じている。安全性を無視して体重を落とし続けろとは誰もいえない。だからといって、体重を落とさずに体力を温存したファイターが体重を落とした選手に勝利して喜ぶことが、公平な勝負の結論だろうか? 

本来は一方が体重を落とせなかった場合は、試合は不成立としなければならない。そうならずに体重オーバーが罷り通っているのは、UFCが興行を成立させるため、あるいはTV中継を成立させるために体重超過を暗黙の了解として黙認しているからだ。

とはいっても興行を成立させること、TV中継を滞りなく回し終了させることはMMAを成立させるために決して譲れないマスト事項だ。だから、体重オーバーをしなかった選手が敗れて泣きをみる。

この事態に対し、国内では計量をパスした選手が勝利した時のみ試合を成立させ、負けた場合はノーコンテストとするという解決法が取られることが多い。以前、ベラトールのバンタム級選手権試合でも見られた手法だ。

勝っても勝ちにならない者と負けても負けにならない者の試合は、勝負と呼ぶことができるのか。これも言ってみれば一種の苦肉の策でしかない。国内においては選手の手売りチケットというマネタイズがベースに存在するために、興行でなくそのファイターの試合を目的にチケットを購買した客がチケットの払い戻しを要求すると、興行収益にダメージを与える。

そして体重を落とした選手も、せっかく練習してきたのだから試合をして、ファイトマネーを手にしないといけないという事情がある。だから――致し方ない。これはもう、致し方ないのだ。それがJ-MMAの実情だ。実情に沿わない理想論をかざしてもどうにもならない。

ただし、UFCは違う。UFCに関しては暴論だろうが、理想を持った解決策を模索する必要がある。それだけのファイナンシャル的な基盤が存在しているから、だ。つまりはUFCであれば体重オーバーをした選手をイベントから締め出すことができるというわけだ。

それ以前に、ショートノーティスの代役出場に関しては、もとから負傷をしていない選手の水抜きが不必要な体重でのキャッチウェイトにするという方法もある。こうすると、同階級で普段から体重を落とし気味のファイターや、1階級下でも従来の体重は上のクラスのリミットを上回る選手らが、よりヘルシーな状態でオクタゴンに向かうことができる。

ただし、緊急なオファーでない選手でも体重超過はいくらでもみられる。タイトル戦ですら、減量失敗でなくてもイベント当日や前夜の体調不良はありえる。よって、タイトル戦、メインイベントと同階級のトップランカー対決を同じ大会に必ずマッチアップし、タイトル戦やメインイベント出場予定のファイターが欠場となったり、体重を落とせない場合は、同階級で組まれた試合のランク上位者が代替出場を果たし、挑戦者となるか暫定王座決定戦に挑む。

ここで試合が消滅した選手はファイトマネーの全額が支払われるようにする。勝利ボーナスを手にできる権利を逸するよりも、試合がなくなっても戦った時の最低限の対価を得ることができる。そこを前提に契約を交わすことを忘れてはならない。

しかし、シドニー大会のように4人も体重オーバーをした場合は、試合数が減ってTV中継に影響がでてしまう。UFCの場合は手売りチケットは、ズッファ本体は気にする必要はない。それだけの中継料は支払われるだろうから、試合数の確保の方が問題だ。

と同時にローカル大会の共同プロモーションの場合は、チケット収入が命綱というケースもあるかもしれない。そこで、だ。この試合数の確保とチケット代の減収を防ぐ手立てとして今のUFCのイベントの流れであるFight Passのアーリープレリミ~プレリミ~メインカード以外の試合を3試合ほど用意しておく。

それらの試合に出場する選手は、開催地に近い都市を基盤にしているローカルファイターで、UFCとの通常の契約ではなく1試合のみの契約とする。彼らの試合もUFC公式戦としてはカウントされず、Dana White’s Tuesday Night Contender Seriesよろしく人材発掘マッチとして実施する。

Tuesday Nightは除外されたContender matchといったところだ。体重超過者が出た場合、体重を守った選手はファイトマネーは確保でき、試合がなくなるのは上記と同じとする。ここで空いた試合の穴埋めをContender matchがするようになる。全員が計量をパスした場合は彼らの試合は開催地のスタート時間によって、アーリープレリミの前か、メインイベントのあとで実施する。

それらの試合も実況を乗せて収録し、ライブだろうが後日だろうがFight Passで流せば良い。そうすればプレリミやメインカードのタイムスケジュールは常に固定できるはずだし、無駄な(※失礼)契約者の増加も防ぐことも可能になる。何より、見どころのあるファイターが発掘できればコールすれば良い。契約に至らない選手の試合でもFight Passのアーカイブに陳列され、地元ファイターなのでチケットも実売にも貢献するだろう。

何よりも、これによって体重オーバーの選手は試合を失い、収入も得ることができなくなる。そういう事態が規定路線となると、過度の減量をするファイターも減少するのではないだろうか。

現在、世界中に数多あるMMAイベントで、このような制度を施行できるのはUFCだけだ。そしてUFCが本格的に体重オーバーの選手への規制を強化――あるいは居場所をなくしていくことで、UFCを目指すファイターの体重超過軽視も少なくなるに違いない(と思いたい)。 まぁ、絵に描いた餅だし、机上の空論だ。でも、UFCなら杵でついた餅になるし、実施は可能なはずだ。

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