4月23日に行われたPancrase286でクロアチアのマティヤ・ブラジセビッチを2R、RNCで下したライト級キング・オブ・パンクラシスト久米鷹介。, 今回、彼はキャリア初という状況のなかでこの一戦を迎えていた。兄のように慕う日沖発選手が久米選手の所属するALIVEを離れて、3月からstArt Japanという自らのジムを作った。 自然と自身もこれまでとは練習環境が変わった。練習環境が如何にファイターにとって大切なのか。この当然のことを改めて、久米選手に尋ねた。
──日沖選手のジム・オープンに関係して、どのように練習環境が変わりましたか。
「今回はstArtでミット打ちなどをかなりやらせてもらいました。ALIVEの練習はスパーリング中心なので、発さんの方からstArtを好きに使って良いと言ってもらえて、かなり追い込みを掛けることができました。それはもちろん、社長(ALIVE鈴木陽一代表)も承知してくれています」
──日沖選手が抜けたことでALIVEの練習に変化は見られたのでしょうか。
「そうですね……、発さんが指導していた土曜日のMMA練習はALIVEでそのまま続いていますし、水曜日のクラスも発さんが継続しています。以前は午前中に発さんが担当していたグラップリングや柔術もstArtでやっている形になっています。 僕がALIVEで指導する月曜日のシュートボックス・クラスは、発さんがstArtで指導があって一緒にできないですが、本来は金曜日も別々になるところ、僕の方からstArtに行く必要があれば社長も自由に行かせてくれています。なので考えようによっては、月曜日以外は一緒にやっていることになります」
──日沖選手が独立する、それは久米選手にどのような影響を及ぼしたのでしょうか。
「う~ん、まず発さんはジムを創ることを考え始めた時から、自分には話をしてくれました。そして、社長と上手くやっていくという方針を持っていることも聞いていたので、自分の練習環境の変化などについて深く考えることはなかったです。 実際にstArtを作っても、ALIVEを完全に出ていくという形ではなかったですし、そこで自分がALIVEを離れるとかも考えていなかったです。なので、それによって人間関係が断ち切れることは全く頭になかったです」
──では仮によくあるジムの独立劇で、完全に仲違いになるような状況になっていれば……と考えることもなかったと。
「なかったですねぇ(笑)。ただ、僕のなかで言えることは発さんと練習できないということはあり得ないので。何があっても、発さんと練習できる環境を選択しています。 実際、今のように頻度や場所が変わったとしても発さんとの練習は続いていますし。若い頃だと、ガンガンとスパーリングをして欲しいという考えがあって、一緒に行動しないといけないと頭デッカチになっていたかもしれないですが、今は要所要所で集中して手を合わせていれば、それで大丈夫なので。そこで発さんにアドバイスしてもらったことを自分で生かしていくのかが大切になっています」
──なるほど。
「なので、今の練習環境が以前と比べて、マイナスになっているとは思っていません。僕はALIVEとstArtを自由に行き来しているので。ただし、発さんの存在がいないと……技術的、メンタル的、本質的なことをまだまだ教わりたいですし、試合が決まれば対策も発さんに練ってほしいです。絶対的に信頼していますし、精神的な支柱です。技術的にもそうですし、僕にとっては作戦参謀でもあります。 同時に社長がプロモーションとの交渉を一手に引き受けてくれますし、スポンサーさんを探してくれたりだとか、サポートをしてもらっています。なので僕はALIVEとstArtの両方で、とても上手く練習できています」
同門の日沖選手が自らのジムを作ったことで、確実に練習環境は変わった。 そのなかで、以前と変わりなく、それ以上の体制を整えるために彼自身、どのような想いでいるのか。ケージの中は個人スポーツだが、その場に足を踏み入れるまでは高度なチーム戦が要求されるMMAを戦ううえで、久米選手がどのような足場固めを行っているのか、その練習環境について尋ねた。
──ALIVE本部とstArt以外で練習することはもうなくなったのでしょうか。
「フィジカルは重久(正)コーチにALIVE栄で追い込んでもらっています。重久コーチとのフィジカルは、ただ単にフィジカルでなく、精神的な追い込みにもなっています。それはずっと若い頃から続いている練習です。今も週に一度は重久コーチにケツを叩かれに栄へ行っています(笑)。 重久コーチは僕の疲労度や、体の調子もチェックもしてくれていて、自分の様子を社長に伝えてくれて、スパーの強度が決まるような形です。フィットネス・ジムに通うことなく、ALIVEのなかでずっと面倒をみてもらえているので、費用的にも助かっています。 唯一、出稽古というわけではなく自主練習ですが、志村道場系のSTGというフィットネス・ジムに初動負荷マシーンがあるので、そこには通うようにしています。筋トレというよりも、体をほぐすことが目的です。STGだけですね、ALIVEと発さんのところ以外で通っているのは。重久さんがフィジカル、発さんが技術や作戦、社長が自分のような選手ではプロモーション関係の人とは交渉ができないので、そういうビジネス面で面倒を見てくれています」
──役割分担ができているのですね。
「ハイ。それと遠征の時などは、会長(鈴木代表夫人)が試合の時のチケットや宿の手配など取り仕切ってくれたり、そうやって皆さんに支えてもらい自分は試合に臨むことができています。あと、練習相手になってくれる後輩の選手たちの存在も忘れることはできないです。 軽量級が多いですけど、彼らの頑張りが刺激になりますし、バンタム級の子たちとスピード勝負をすることで、自分の動きも磨かれています。 ただ、どうしてもバンタム級やフライ級の選手が多くて、自分より大きな選手になるとミドル級の加藤(久輝)さんになってしまうので、自分と同じ体格でパワーのある選手との練習をどのようにしていくのかが、課題になっています」
──練習全般を統括するヘッドコーチは誰になるのですか。
「トータルで管理しているのは……自分ですね。発さんにアドバイスをもらいながら、自分でチョイスをしています。それは以前から、変わらないです。あまりうまく仕切れているとは思えないんですけどね(笑)。 とにかく発さんがジムを作る以前から、そうやってきたので──今も練習環境的には何も問題ないです。あとは自分のやり方次第。現状をもっと良くしていけると思います」